【第6話】風のトマト
時は少し遡る。
女神様、ハーヴェストヴィルはシュルムの支配領土ということはわかりました。俺がオークをやった時にあいつがすぐ駆け付けたのはそういったスキルとかですか?
恐らくはスキル『ロイヤリティーボンド』でしょう。主従の関係にある者同士で魂のつながりが切れた時に切断を検知できるスキルです。シュルムは恐らく部下たちの生死を常に監視できるでしょう。
「ところでこれからハーベストヴィルを無力化するという話ですが、もしシュルムが来たらどうするんですか。」
「逃げるに決まってるじゃないですか」
「それならなぜ奪い取られるかもしれない町を無力化するんです?」
「女神様、まずは情報収集です。町にいる人間に聞き込みをしてシュルムの弱点やら魔王の弱点やらを探ります。一番は協力して仲間になってくれるのが一番嬉しいですけどね。」
「確かに情報は大事ですね。シュルムがどんな弱点を持っているか現状では何もわからないですし、人間と接触するのは賛成です。私を信仰するこの国の民であればあなたをすぐに信頼するしょう。」
現状の問題はシュルムが町の異変を察知して駆けつけてくることだが、こればっかりはどうにもならない。今の俺で倒せるかわからない。何が起きても逃げられるように瞬間移動系のスキルが今すぐに欲しいところだ。
「ところで女神様。何かあった時にすぐに逃げられる移動系のスキルが欲しいんですが、そういう系の魔物っていたりしますか?」
「疾風移動のスキルを持つウィンドフェンリックという魔物がいます。あなたの世界でいう狼のような魔物です。近くの丘陵帯で生息していますよ!」
「ちょうどいいですね!一狩り行きましょう!」
丘陵地帯はトマト畑からほど近い場所に広がっている。この地域は緩やかな起伏に富んでおり、大小さまざまな丘が連なっている。丘の斜面には草が生い茂り、風が吹くたびに草が波のように揺れ動く。時折、野花が点在し、彩りを添えている。

そこで俺は風狼の群れを見つける。幸い俺は体が小さいため奴らには見つかっていないようだ。草むらから奴らを見渡す。およそ、30頭の群れだ。俺が思ってたよりも何倍も大きい狼だった。
襲われたら一瞬で死んでしまうだろう。まずは偵察だ。俺は鑑定スキルを使用し、情報を手にいれる。
風狼 (族長) Lv.30
体力: 500
物理: 150
魔力: 250
知力: 100スキル:
風刃、暴風刃
ユニークスキル:
疾風移動: 一定時間風になり、瞬時に移動する。移動中は物理攻撃を完全に回避する。
疾風移動何としても欲しい!とても便利じゃないか。風になれるなんてまさにファンタジー!
だが、暴風刃は厄介だな。発動される前に殺るしかないな。
俺はウィンドフェンリックの死角にばれないように移動する。まあ、トマトが転がったところで敵と認識できないだろうけどな。
俺はトマトスプラッシュの出力を調整する。今まではトマト汁をショットガンのように広範囲に向けて発射していたが、今回は距離が離れている。発射口を狭めて水鉄砲のように、いやスナイパーライフルのように高火力でなければ一撃で仕留めきれないだろう。
発射口をより強固にし、一点に集中させる。そう、俺には一つやってみたいことがあった。オークを倒したときに手に入れたアイアンスキンだ。これは正直使いどころが難しかった。俺の戦闘スタイルは暗殺に近く、敵と対面して戦うということは少なかったのだ。オークのように肉を切らせて骨を断つような戦いであれば役に立っただろうが俺はおそらく身を切られたら終わりだ。そんなこんなで使ってなかったアイアンスキンを発射口に使用する。これで狙撃に適したトマトスプラッシュ、いや、トマトライフルの出来上がりだ!
スナイパーライフルをイメージし標準を合わせ、引き金を引く。撃った瞬間俺は後ろに弾けとんだ。凄まじい衝撃だったのだ。自分がトマトであることを忘れていた。内蔵は破裂…していない
「危なかったです!発射の衝撃で破裂するところでしたよ!」
女神様は俺の身体が破壊されるのを感じ、咄嗟にアイアンスキンを使用し、俺を守ったのだ。
「女神様って俺のスキル勝手に使えるんですね」
「はい!私は今トマトさんと同化していますから使えますよ!でも、安心してください。プライベートは守りますよ!」
女神様のことだろうから勝手に発動させないだろうけど寝てるときにドカーンとかなったら大変だ。でも、最悪女神様に防御を任せて戦うということもできるな。
「それはおいといてトマトさん、やりましたね」
女神様はそういうと風狼を指差す。
風狼が倒れていたのだ。そして、どこかで聞いたシステム音が流れた。レベルアップだ。どれどれ~
暗殺トマト Lv.21
体力: 1000
物理: 450
魔力: 250
知力: 100スキル: 鑑定, トマトスプラッシュ, ブルータルスマッシュ, トマトスナイパー, 風刃, 暴風刃
ユニークスキル: 強奪者, 女神信託者, アイアンスキン, 疾風移動
結構レベル上がったぞ!しかも疾風移動が使えるようになった!どんなスキルなんだろうか
「疾風移動!」
俺の周りはたちまち風の刃で包まれるそして透明になった。
「これは一体!?」
「フェンリルステップは風刃を身に纏ってトマトさんから反射される光を調整して周囲から見たときに背景と同化させます」
女神様が説明してくれた。
「これは使えますね!いつシュルムが来ても逃げられそうです。」
しかも移動速度が今までの比じゃない。戦闘中も使用できそうだ。風狼を暗殺できて本当に良かった。これは相手に使われたらかなり厄介なスキルだ。
そんなこんなで逃亡スキルを手にした俺は当初の目的であったハーベストヴィルに潜入した。まずは敵の配置の調査だ。前回の四大魔神シュルムに勘づかれたこともあるしトマトは目立つ。泥水でも被って泥団子のようになろう。
泥溜まりに入り、泥を浴びる。赤い表皮は完全に見えなくなり、泥団子になった。
これはひょっとしてラン○ー
「トマトさんオークがこちらにきています!」
泥遊びに夢中になっていた隙に近づかれたようだ。見たところ、オークは一人のようだった。俺はオークを射程に入れて技を放つ。
「少トマトスプラッシュ!」
オークは気絶した。
どうやらオークたちは単独で警備にあたっているようだった。辺りを転がりつつオークの配置を確認する。
うーん、相当腕に自信があるようだ。自分より強い相手がいるとは思わないんだろうか。町中を探索し終え、警備兵は100人程度であることを確認した。
少しも危ない場面もなく、敵のマーキングを行った。なぜこんなにスムーズにいったかというと魔力感知のおかげである。自分を俯瞰的に見れるので物陰から体を出さずに敵を確認できる。さながら三人称視点モードだ。またトマトということもあり背の低い草の中に隠れてみたり、ネズミが入れるほどの穴を抜けられたりと潜入には有利な体型であった。
そんなわけで全てのオークを無力化し、解放軍、ハバーナ軍と合流するのであった。
P.S.次回は国家転覆の策略をたてていきます