【推し活転生】 推しを守って死んだらトマトに転生しました 第5話

ストーリー

【第5話】 ハーベストヴィル

タマーネはハーベストヴィルで生まれ、農家を営んでいた。ここハーベストヴィルは女神の国デメテラーナの南部に位置する。人口は1000人程度でその住人のほとんどは農業を営んでいる。主に取れる農作物はトマトや、にんにく、玉ねぎだ。少し先へ行くと漁港があるが、海には魔物が多く危険を伴うため船に傭兵を雇う必要があり、ハーベストヴィル近辺ではあまり漁業は盛んではない。ハバーナ国がかなり近いこともあり、魚は輸入しているのだ。その代わりに大量に収穫できるトマトを輸出する貿易が成り立っている。北風の影響でハバーナ国上部の海岸沿いは土壌の塩分濃度が高く、農業には向いていないのだ。ハバーナ国とはお互い足りない部分を補う形で貿易を維持し、友好な関係を築いていた。

だが、貿易は崩壊した。魔王が誕生したのだ。魔王ヴェジタリウスは中央都市デメテラを占拠し、デメテラーナを魔物の国に変えてしまった。ヴェガノミアと改名されたこの国は、人間の魔力を食事とする魔物たちにとっての楽園となった。魔王ヴェジタリウスは、人間を殺し捕食することでこれまで生命を維持していたが人間は有限であるため、魔物たちに食に関する規則を定めた。人間を殺すことをやめさせ、人間の血液を摂取することのみを許した。人間の血液は魔力を多く含んだため、生命維持に必要なエネルギーを効率よく摂取することができた。

だが、中には血液だけでは満足できないものもいて一度クーデタが起きた。そのためヴェジタリウスは妥協案とし、老いた個体や病気の個体のみ食べることを許したのであった。これにより、魔物たちの食糧供給は安定し、ヴェジタリウスの支配はさらに強固なものとなったのである。

ヴェジタリウスは国外政策として鎖国を行った。全ての漁港を閉じ、一切の国の出入りを禁止したのだ。これによってハーベストヴィルとハバーナ国との貿易は閉ざされたのであった。

 隣国ハバーナは魔物の国ヴェガノミアを許容はできなかった。ハーベストヴィルにいたハバーナの優秀な商人も巻き込まれ、家畜にされてしまったのだ。ハバーナ国は国民の総意として全面戦争を決定した。初めにタラバガ国に対ヴェガノミア同盟を申し出たが、タラバガ王国は中立を表明した。自国が攻められない限りは軍を動かさないとのことなのだ。先を見通せない王がどうやら君臨しているらしい。

ハバーナは自国のみでヴェガノミアを打倒することを決意し、第一手としてハーヴェストヴィルに地下トンネルを数年かけて掘ったのである。そしてハーベストヴィル内の人間と共にクーデタを明日仕掛ける手筈であった。

タマーネはハーベストヴィル解放軍の総督だ。妹は四大魔人の1人シュルムに連れ去られ、生死もわからない。ヴェジタリウスは人間を殺さず、家畜化する規則を定めたが病気や老化によっては人間を食べてもいいと例外を定めた。一部の魔人貴族は若い女をわざと病気にし、食べているといった噂を聞いたことがある。もし妹が貴族の手に渡っているとしたら…。こいつらの行為は決して許されるべきことではない。

「この長閑な町をよくも壊してくれたな、ヴェジタリウス。だが、それも明日までだ。」

「我が町からヴェガノミアをひっくり返しましょう。タマーネ」

彼女は副官のセリーヌ。設立当初から協力してくれた仲間だ。彼女も姉をさらわれ、憤慨していた。

「ああ、ここまで長かったな。念願のクーデターだ」

「まだ早いわよ。感慨に浸るのは成功してからにして。」

ハーベストヴィル解放軍は町の人間の食糧を確保するためにシュルムによって割り振られた人間で構成されている。つまり、家畜ではなく強制労働組だ。俺たちは血液を提供する人間たちよりも、監視が緩く動きやすかった。今は総勢100人からなる解放軍だ。俺たちは取りのされたハバーナの商人たちと内通し、ハバーナ軍がこの町を占拠することを知った。それに向けて警備兵の情報をひたすら集め、こちらが短時間で町を占拠できる作戦を立てたのであった。

そして、クーデター当日の早朝。

セリーヌはタマーネの元にやってきた。

「タマーネ、ごめんなさい。」

「セリーヌ、どうしたんだ?」

「お前がタマーネか?へへっ、よくも俺たちを出し抜いてくれたもんだぜ」

現れたのはセリーヌとオーク警備隊長のマルクであった。

「セリーヌ、お前まさか今日のことを話したのか?」

「…」

セリーヌは何も言わなかった。

「タマーネ。へへっ、お前たちの計画は全部知ってんだよ。今までご苦労様だったな。ハバーナ兵が攻めてくるトンネルももう塞いだんだよ!へへっ、残念だったな!悔しいだろ!どうだ?計画がパーになった気分は」

タマーネは憤り咄嗟に殴りかかろうとしたが、それは相手の思う壺だと思ったので頭を冷やした。

「投降する。だからセリーヌは許してやってくれ。」

「タマーネ!私はあなたたちを売ったのよ!なんで貴方はそんなに優しいのよ…」

「そうだな。セリーヌは許してやろう。でも、タマーネ。お前はミンチだ」

「そんな!解放軍のみんなの命まではとらないって話だったじゃない!!」

「へへっ、そんなこと言ったっけなあ〜。言った覚えがないからミンチ!」

「マルク!!!お前えええええ!!」

セリーヌは取り乱し、マルクに殴りかかった。だがマルクはヒョイっとかわし、セリーヌの手を掴みそのままあらぬ方向へとセリーヌの腕を折った。セリーヌは金切り声をあげ地面を転げ回った。

「へへっ、人間なんて大したことねえな。全く、脆すぎて手加減がわかんねえな。」

とりあえずシュルム様が来るまではこいつらは牢屋に入れておくか。

「おい、オークどもこいつらを牢屋へ連れて行け。」

マルクは連れてきた他のオークたちに指示を出したが返事がなかった。

「おい、聞いてんのか?」

振り返り、オークどもを見るとなんと全員が泡を吹いて倒れていた。近くには赤い球体が転がっている。

「あ、なんだこれは?」

マルクはおもむろに赤い球体を手に取り、よく見ようと顔の前に近づけた。

『トマトスプラッシュ!!!』

トマトからトマト汁が溢れ、それを飲み込んでしまった。

「…こ…これがシュルム様が言っていたトマトか…」

マルクはそのまま目を閉じた。

「全く、すぐ泡吹いちゃって手加減がわかんねえな。まあいいや、次いこ次!!」

赤城はそう言い放ち、去っていった。

「え、はっ?何が起きた?」

取り残されたタマーネと、先ほどまで転げ回ってたセリーヌは開いた口が塞がらなかった。通りすがりにちょうど居合わせた解放軍の最年長であるチョウチョーは興奮した勢いで言った。

「あれは勇者様じゃ。勇者様が現れたのじゃ!」

赤い球体は町中に汁をぶちまけ、オークを無力化していくのであった。

続く。

P.S. 地図書きました!明日は仕事なので次の更新は火曜日になりそうです。

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