【推し活転生】 推しを守って死んだらトマトに転生しました 第1話

ストーリー

【第1話】トマトはないだろ

俺は赤城番(アカギ・バン)25歳独身のシステムエンジニアだ。大学を卒業し社会人となり働いているわけだが、社会人3年目になると部下がつき自分のタスク以外にも部下の面倒を見なければならないのだ。かといって会社での立場はそこまで偉いわけではないので発言権が弱くこうした方がいいと思ってもなかなか上司に進言できない。そんな時期である。

「あー、今日も残業か。」

最近は、社長が自社ブランドを作りたいということでOJT(*1)期間の一環として新卒に企画を考えさせている。新卒二人のOJT担当が俺になり、システム開発を行う傍らで彼らの面倒を見なければならないのだ。新卒にこの企画どうですか?なんて聞かれたらちゃんと答えてあげないといけないし、プロジェクトマネージャーから毎日開発の進捗をつつかれて進捗が遅れると嫌な顔されるのでストレスが溜まる一方だ。

そんなこんなで時間が足りず、今日も残業。でも、俺は毎日幸せだ。

なぜなら、推しがいるから!!!!

今日も21時から推しのインスタライブがある。それまでにはなんとか仕事を終わらせなければ!

*1 OJTとは On the Job Training (オンザジョブトレーニング)の略で、職場の上司や先輩が、部下や後輩に対して、実際の仕事を通じて指導し、知識、技術などを身に付けさせる教育方法のことです。 

黒田果音(クロダ・カノン)

彼女はアイドルグループ 「ぽとふ・べじたぶる」所属の黒田果音(クロダ・カノン)だ。これが俺の推しだ。彼女の推しになったきっかけは彼女の野菜嫌いだ。アイドル事務所が野菜を取らない若者に対して野菜を摂ろうといった企画でこのアイドルグループを設立したわけだが、彼女はなんといっても野菜が大っ嫌いで特にトマトが大嫌いなそうだ。

俺は彼女が野菜を推進するグループにいながら野菜嫌いというギャップに尊死してしまったのだ。そこからずるずるとはまっていき、彼女のグッズは全てコンプリート、握手会も常連になってしまったのだ。部屋には彼女のものが溢れ、オタ活最高と毎日思うのであった。

トマトが大っ嫌いな彼女がTwitter(今はXか…)で一万リツイート行ったらトマト食べます!!とのことでツイートし、なんと1万リツイート達成してしまったので今日はインスタライブでトマトを食べるという企画をやるのだ。

絶対に遅れられない!なんとしても仕事を終わらせなければ。

俺は急いで仕事を終わらせたが、20時30分になってしまったのだ。自宅まで大体30分なのでギリギリ間に合いそうだ。俺は急いで帰宅した。だが、現実は厳しかった。電車が遅延したのだ。踏切に人が侵入して点検のため、20分ほど遅れるらしい。家でゆっくり見たかったがしょうがないので電車で見ることにした。

だが、再び現実の厳しさを突きつけられる。イヤホンがないのだ。朝は確かに持ってたはずなのに、どこに落としたんだ。これじゃ、推しの絶叫が聞けないじゃないか!!!ああ、どうしよう。このままじゃ俺の一生で一番ハッピーな瞬間を逃してしまう。うう、逃すくらいならスピーカーで聞いてやるぞ!!
そんなことを意気込んだところで

「あの、イヤホン落ちましたよ?」

メガネ娘が俺の足元に落ちたイヤホンを見てそういった。己の世界に入っていた俺は少し驚き、慌ててイヤホンを拾った。

「あ、すみません。ありがとうございます。」

そこで悲劇が起こってしまったのだ。次の瞬間、電車は赤く染まったのだ。

「踏切の点検が終了したため、電車を発車いたします」

車内が大きく揺れ、イヤホンを拾っていた俺は足を滑らせた。それだけではなく、まさかの事態に、メガネ娘の持ち物を思わず踏んでしまったのだ。それがまさかの

「わ、私のトマト!」

彼女が持っていたスーパーのビニール袋は破け、トマトの汁が床に広がってしまったのだ。

「ああ、もう!どうしてくれるんですか!」

「本当に申し訳ない!トマトは弁償します!」

「弁償してくれるならいいです!許します!」

「必要ならお金もあげ…。えっ、許してくれるんですか」

「許します!次で降りるんでそこでトマト買ってください!」

「は、はい!」

次の駅って俺の最寄りだよな。でもこれで俺が推しのライブに間に合わないのが確定したな…。恨むぜ、運命。

次の駅につき、近くのスーパーに寄ることになった。

「ちょっと連絡しなきゃいけないんで待っててください。」

そういって彼女は俺に背を向けて自分のスマホをいじり出した。俺もつられてスマホを開き、Twitter(今はXか…)の更新を走らせた。すると推しのアカウントで

すみません、本日のインスタライブ30分遅れます!

とのことだった。よかった、それなら見れそうだ。ほっとため息をついたところでメガネ娘の用がすんだみたいなのでスーパーへ向かった。

「はい、トマト」

「ありがとうございます!」

「いえいえ悪いのは僕の方なのでお礼を言うのはこちらですよ」

あまり今まではっきりと顔を見ていなかったが、このメガネ娘よく見ると可愛い顔してるな。というか誰かに似てるな。あれもしかして…。

「じゃあ、私急いでるんで!」

俺の結論が出る前に彼女は駆け足で走ってしまった。彼女はいってしまったが俺は彼女の正体が知りたくて、絶対ファンとしてやっちゃいけないと思うけど興味本位で後をつけてしまった。

確かここで曲がっていったよな。この先って一本道だから走っていけば彼女に追いつけるのでは。最寄ということやスーパーの近くはよく買い物で来ていたので土地勘があった。ただ街灯が少なくちょっと不気味なのであまり立ち寄ろうとは思わなくて今まで通ったことはない道だった。
本当に進んでいいのか。

道の怖さに立ち止まり、彼女への罪悪感を今更ながらに感じたが、今回は興味が勝ってしまい、結局彼女を追いかけることにした。

しばらく早歩きで歩いていると、何か道の真ん中に黒い塊が横たわっていた。ちょっと怖かったが近づいていくと人型をしていてうつ伏せになっているようだった。道路に横たわるなんて大学生の時に酔っ払ってよくやっていたので今回も酔っ払いかと思い俺は声をかけた。

「そんなところで横になってたら風邪を引くぞ?」

それでも人影はびくりともしない。相当、泥酔しているようだ。

「おーい」

返事がないことにとても動揺したが、ゲロが詰まり呼吸困難で死んだ事例があると聞いたことがあったので使命感でその人?を起こすことにした。恐る恐る近く。

俺はびちゃっとドロッとした液体を踏みつけた。

うわっ、こいつおしっこ漏らしたのかよ。俺はそんな風にしか思わなかった。

「おーい、起きろ。風邪ひくぞ」

ゆすってみたが反応しない。ちょうど街灯が暗くてよく見えなかったのでスマホの灯りで照らしてみると、足元は赤く染まっていた。

「お、おい。う、嘘だろ。」

震えが止まらない。呼吸が速くなる。

「お、おい。起きろってば!」

俺はライトでそれを照らした。

「死んでる…。」

そこには赤く染まった死体が横たわっていた。顔を確認すると…。

「メガネ娘、ではないか。よかった。」

仏様の前で何をいってるんだ俺は。不謹慎だと思ったが安心したのも事実だった。

その死体は背中から刃物で何回も刺された形跡があった。よっぽどの恨みがあったのだろう。

「そうだ…。110番しないと」

俺はスマホを取り出し、連絡をしようとした。

「きゃあぁぁぁぁぁ」

道の先で叫び声が聞こえる。この声やっぱり!急いで声がする方へ向かった。

「こ、来ないで!私が何をしたっていうの!」

「みた。見ただろ?さつじん、さっきの殺人」

「誰にも言わないから!!お願い!!」

「しんよう、信用できないな。あいつ、あいつもそうだった」

「う、うわぁぁぁん。誰か、助けて」

「泣いたってむだ、無駄だよ」

メガネ娘に近づいていたのはフードの男で黒い手袋に右手に刃物を持っていた。

俺はフードの男に気づかれていないようだった。今なら飛び蹴りをくらわせてやれる。俺は確信していた。よし今だ!!

「わな、罠だよ」

「え」

俺は犯人に飛び蹴りを避けられ、すれ違いざまに反撃をくらった。

「かた、肩」

「かた?」

俺は自分の肩を恐る恐る見ると、着ていたYシャツは赤く染まっていた。どうやら刺されたらしい。

「う、うわああああ」

自分の大量の血なんて初めて見るので思わず、声を上げてしまった。でも俺は怯まなかった。

なぜなら、推しがいるから!!!!

相手は慣れているようだ。最悪、推しが逃げられればいいさ。推しのためなら死ねる!俺は自分を奮い立たせ、フードの男と相対した。

「逃げてくれ!」

「で、でも!!」

「逃げて助けを呼んできてくれ!俺はそれまで耐えるさ」

「馬鹿じゃないの!!あなた素手でしょ!!」

「俺は死んだっていいんだ。君が死んだらみんなが悲しむだろ」

「…」

「もう、もういいよね」

フードの男が俺に襲いかかってきた。刃物を持つ相手は上から振りかぶって下ろしてくる。その動きに対して、相手の手首や肘を押さえてぐるっと回すテクニックをYouTubeで見たことがある。一か八かにかけてやってみるか。

だが、男はナイフを構え突進してきた。俺は反応できず

ずぶり

「ごばぁっ。うぇ」

刺されて口から血が出るなんて漫画の世界だと思ってたが、どうやら本当らしい。

「に、逃げろ」

腹からどんどん血が出ていくのがわかる。もう力が入らなくなってきた。

俺は最後の力を振り絞り、刺されながらフードの男に覆い被さった。

フードの男は仰向けに倒れたが、包丁を俺の腹から抜き今度は背中を何度も刺してきた。

ずぶり、ずぶり、ずぶり、ずぶり

血が喉を塞ぐ。視界がぼやけ、目が霞んでいく。体動かない。

彼女は逃げれただろうか。俺はそれを確認することもできず、全てが暗闇に包まれた。

「あんたなんてトマトになったらいんだ。私を守って死ぬなんて馬鹿みたい!」

可愛い声が聞こえる。これは推しの声か…。最後に聞けてよかった。


ああ、俺は死んだのか。この後、どうなるんだろ。地獄かな、天国かな。俺は人生真面目に生きてきたよな。きっと天国だよな。

目が覚めると俺は….

トマトになっていた。

「トマトはないだろおおおおおお!!!!!!」

俺は地獄に落ちたのであった。

P.S. お読みいただきありがとうございます。ストーリーの全体像を定める前に執筆を始めたのでところどころ修正していくかもしれませんのでご了承ください。4500字も書いてしまったのでもう少し簡潔化します。この後主人公は異世界に転生してトマトとして生き抜くだけでなく、異世界で無理難題を押し付けられていきます。次の話をお楽しみに…

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